マイナス金利後の経済 〜EUやスイスの分析から今後の日本経済について考案する

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(写真=PIXTA)

 2016年3月10日に行われた欧州中央銀行(ECB)の理事会で、利下げを含む追加緩和政策が発表されたものの、同時に行われたドラギECB総裁の発言が注目を集めた。今後の追加利下げについて否定的な見方を示したからだ。周知のように、欧州ではすでに「マイナス金利」が導入されて数年が経過しているが、ドラギ総裁が「追加の利下げ=マイナス金利の拡大」を否定したことで「マイナス金利政策が限界に達しているのではないか」という見方が市場に広がった。

 その一方で、日本銀行は2016年1月29日、これまでの「QQE(質的・量的金融緩和)」に追加して「マイナス金利」を導入。欧州中央銀行に比較して1年以上遅れたものの、マイナス金利政策に踏み切った。しかし、ECBがマイナス金利政策の限界を匂わせたことで、投資家は戸惑っている。そもそもマイナス金利とは何なのか。すでにマイナス金利が定着している欧州のケースを参考に、今後の日本の状況を考えてみたい。

マイナス金利導入で何が変わる?

 日銀はなぜ、マイナス金利を導入したのか。金利を強引に押し下げることで、世の中にマネーを今まで以上に流通させ、「景気を活発化させて目標とするインフレ率2%を達成したい」からだ。実際に、マイナス金利が導入されれば円も売られて安くなり、円安が進めば株価も上昇するはずだった。

 ところが、実際には円高が進み、株価も収益悪化が予想される銀行株を中心に売られて大きく下落した。その後、株価は徐々に戻りつつあるものの、為替レートの戻りは鈍い。

 とはいえ、マイナス金利導入で10年物長期国債の金利もマイナスとなり、国債の残存期間と金利の関係を示す「イールドカーブ」も、一様に下落してマイナス金利政策がきちんと機能していることを示している。黒田日銀総裁は、「マイナス金利は、時間はかかるが徐々に成果を上げていく」と繰り返し述べている。実際、預金金利はますますゼロに近づき、証券会社が販売してきた「MMF」や「公社債投資信託」などの取り扱いをやめるところが相次いだ。

 住宅ローン金利も一段と下落し、企業などに融資する事業ローンも軒並み下落傾向にある。そういう意味では、日本銀行が意図する「金利低下」の効果は、着実に上げつつあると見ていいだろう。そんな状況の中で、ドラギ総裁が暗示した「マイナス金利の限界」は、金融市場やビジネス界に大きな波紋を投げかけたと考えていい。

マイナス金利先進地域「欧州」から学ぶ今後

 前述のように、欧州ではすでにマイナス金利が導入されており、いずれのケースも導入から1年以上が経過している。欧州でマイナス金利が導入された順番に紹介してみよう。

● デンマーク : 2012年7月導入

 マイナス金利導入の目的は大きく分けて2つあり、一つは「通貨の安定」、そしてもう一つが「景気回復によるインフレ率上昇」だ。デンマークの狙いはユーロに対する自国通貨「クローネ」の割高な評価を是正することで、量的緩和策も導入していない。マイナス金利の幅は、導入当初0.20%だったが、2015年7月には0.75%にまで拡大している。

 そうした影響もあってか、2015年末には住宅ローン専門会社の「ノルディア・クレジット」が、半年ごとに見直す変動型の基準金利をマイナスとしたため、1人当たり毎月117クローネの利息を受け取ることになったと発表した。日本円で約2000円だが、6000人を超すローン利用者が恩恵を受けている。

 マイナス金利導入からすでに3年半を超え、デンマークはいまや空前のマンションブームと言われる。とりわけ2015年前半だけで住宅価格が8%も上昇。その背景には住宅ローンの金利水準がゼロもしくはマイナスになっていることがある。

 「借りたらお金がもらえる」という状況は、いまのところデンマークのみの現象だが、銀行預金口座の金利も大半がゼロになっているものの、ユーロに対する通貨の割高感にはあまり変化がない。デンマークの銀行ロビー団体の調査では、1年間でデンマークの銀行が受けた損失は10億クローネ(約180億円)に上るそうだ。

● ユーロ圏 : 2014年6月導入

 デンマークと異なり景気を活性化させてデフレを回避する目的のため、市中の国債や社債などを購入することで通貨の流動性を上げる「量的緩和」も実施している。

 当初、マイナス金利の幅は0.1%だったのが、その後0.2%に拡大。2015年12月には0.3%となったものの、物価の低迷からわずか3か月後にマイナス0.4%にまで拡大している。

 原油安の影響もあって、当初想定したインフレ率1.0%が0.1%と大幅に下方修正されたためだが、ユーロ圏内でのマイナス金利導入は、今までのところ成果はあまり出ていない。マイナス金利導入も物価は下落を続け、2014年9月以降の一時期は「マイナス成長」にまで陥った。物価上昇率は、最近底をついた感はあるものの、いまだ不透明だ。

●スイス : 2014年12月導入

 デンマーク同様に自国のスイスフランが割高に評価されているため導入した。さらに、翌年1月にはマイナス0.75%までマイナス幅を拡大している。デンマーク同様に、量的金融緩和などは導入していない。

 2011年のユーロ危機の際にユーロが大きく売られたが、その時の受け皿になったのが「スイスフラン」だった。フランの大幅高によるデフレ懸念もあったため、対ユーロで為替レートの上限を定めていたのだが、上限撤廃と同時に政策金利をマイナス0.75%にまで拡大。ところが、スイス当局の意に反してスイスフランは再び高騰。マイナス金利は、スイスフランの防衛にはあまり貢献していない。

 スイスでは、すでに預金者から利息の代わりに「マイナス金利=手数料」の徴収を決めた銀行がある。現在は中小銀行の「オルタナティブ・バンク・スイス」1行のみだが、今後マイナス金利が拡大すれば預金者からの手数料徴収に踏み切る銀行が増えてくるはずだ。

●スウェーデン : 2015年2月導入

 ECBと同様に景気回復とインフレ率の上昇を目指して導入された。導入時はマイナス0.10%だったのが、翌3月には0.25%に拡大。ECB同様に年2%のインフレ率を目標に掲げ、量的緩和政策も実施している。

 ユーロ圏同様にスウェーデンの物価もデフレ傾向が強まっているものの、例外的なケースもある。それは、不動産価格の上昇だ。スウェーデンはこの1年で不動産価格が16%も上昇しており、バブルが懸念される水準と言われている。

 要するに、デンマークやスイスのような通貨高を回避するためのマイナス金利導入では、そう簡単に通貨を下げることは実現できていないということだ。ユーロ圏やスウェーデンのように景気回復、インフレ率上昇のためのマイナス金利導入も、なかなかその効果を上げられていない。それでもスウェーデンの不動産価格が1年で16%上昇するなど、一部のセクターでは際立った動きがみられる。マイナス金利導入の是非につい結論を出すには、まだ当分時間がかかりそうだ。

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(写真=PIXTA)欧州中央銀行(ECB)

マイナス金利拡大は不動産投資の追い風?

 さて、問題は日本のマイナス金利だ。いまのところ日銀はマイナス0.1%の水準でスタートしたが、長期国債の金利なども一様に下落しており、金利引き下げ効果は確実に出ている。誤算があったとすれば、日銀がマイナス金利導入によって期待した円安、株高が実現しなかったことだ。黒田日銀総裁は、2%のインフレ率達成のためには「何でもする」と言い続けており、今後のマイナス金利拡大も現実味がある。

 欧州の例を見ても分かるように、日本でマイナス金利が拡大していくとすれば、すでに質的・量的緩和政策を長年続けていることもあり、急激な不動産価格の上昇には注意したほうが良さそうだ。すでに、今年に入ってからタンス預金が40兆円に達しており、リーマンショック時の26兆円を大きく超えているという統計もある。

 銀行は、投資先、融資先を探す必要があり、数少ない投資先である不動産向けローンに向かわざるを得ない。マイナス金利が続けば、「マネー」ではなく不動産や商品など「モノ」に資金が流入してくると考えたほうが良いかもしれない。

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