経済・経営のニュースを取り上げる、百計ONLINE。

経営NEWS-百年の計

解説! 「パナマ文書」で見えてきたものとは

2016,07,04

panama
(写真=PIXTA)

 昨今中米パナマにある法律事務所モサック・フォンセカから流出した顧客リスト「パナマ文書」が世界を大きく揺るがせているというニュースが話題になった。世界各国の指導者を筆頭に、有名企業やその経営者、富裕層とタックスヘイブンとの密接な関係が示されている「租税回避」の実態が分かる内容である。

 果たして、「パナマ文書」は具体的にどのようなものなのだろうか。解説していこう。

 掲載されているのは1億1,150万ものデータ、21万という莫大な数の法人や株主らの名前だ。その中で日本企業や株主の名前は400にも上る。この事件の影響であろうか、伊勢志摩サミットやG7、財務省・中央銀行総裁会議では、国境を超えた過度な租税回避の防止策が議題とされ、日米欧が先導して行うことになった。

 国内では、丸紅 <8002>、伊藤忠商事 <8001>、東洋エンジニアリング <6330>、ライブドア、セコム <9735>、ソフトバンクBB、日本放送協会、豊田通商 <8015>、ワタミ <7522>、大日本印刷 <7912>、ドワンゴ、NTTドコモ <9437>、マルハニチロ <1333>、ファーストリテイリング <9983>、オリックス <8591>、コナミHD <9766>、ロッテ、ソニー <6758>、東レ <3402>、日本電気 <6701>、東京電力HD <9501>、双日 <2768>などが挙がった。個人名では、楽天 <4755>の三木谷浩史氏、UCCホールディングス代表の上島豪太氏などが挙がっている。

 海外では、ロシアのプーチン大統領、英国キャメロン首相の亡き父、習近平中国国家主席の義兄、ウクライナのポロシェンコ大統領、サウジアラビアのサルマン国王など。また俳優のジャッキー・チェン、サッカーアルゼンチン代表のキャプテン、リオネル・メッシの名もあると報道されている。

租税回避の仕組みとは? 世界中にあるタックスヘイブン

 タックスヘイブンとは「租税回避地」であることを念頭においておこう。租税回避地は、税金がかからない「無税の国」や税金が極端に低い「超低税率の国」のこと。租税回避とは、資産をこれらのタックスヘイブンに移すことで課税を免れる、究極の節税対策なのである。

 中には行き過ぎた行為だとの指摘もある。法律に違反してはいないものの、本来納めるべき税金を納めないのはフェアではないという非難の声が高まっているのである。

 タックスヘイブンは世界に30カ国・地域ほど存在するといわれている。

 ケイマン諸島を筆頭にベリーズ、モントセラト、ナウル、バージン諸島、バルバドス、バハマ、ドミニカ国、セントルシアなどのイギリス連邦及びイギリス領がほとんどだ。その他、少数派としてクック諸島やニウエなどのニュージランド自由連邦、アルバなどのオランダ領、パナマなどが挙げられる。

 タックスヘイブンの国や地域にイギリス連邦やイギリス領が圧倒的に多いのは、イギリスが金融立国であることが影響している。租税回避地の核と言われるロンドンの「シティ・オブ・ロンドン」の課税システムが、そのまま導入されているのである。たとえば香港は、法人税が17.5%と非常に安く、預金の利子は課税対象ではない。キャピタルゲインも非課税であるため、タックスヘイブンとして十分機能する国であるといえよう。

どうやって租税回避しているのか

 一般的には、これらのタックスヘイブンに実態のない会社を設立し、自国での税金を回避するというものだ。いわゆるペーパーカンパニーである。タックスヘイブンでの会社運営にあたっては最低限必要なもの、例えば郵便私書箱などが設置されているくらいであろう。しかし、これらの租税回避は「違法ではない」。このため世界中の企業がこの仕組みを使っていても、非難されるいわれはないはずである。

 また驚くことに、HSBC香港上海銀行、シティバンク、スイスユニオン銀行、JPモルガン・チェースなど、世界で名高い有名金融機関もタックスヘイブンを通して租税回避をしていることが判明し、金融機関だけで1,000を超える企業が堂々とデータに名を連ねている。

「租税回避」と「脱税」の違いとは

 そもそも「租税回避」と「脱税」とはどう違うのであろうか。

 租税回避はタックスヘイブンを通して課税要件をクリアするためだけに、不適当な取引をする「不当でも合法的な行為」。それに対して脱税は、課税される要件があるのにそれを隠し「課税を不法に免れようとする行為」を指す。

 脱税は明らかに違法である一方、租税回避地に実態のない法人を設立する行為は、「法的には問題はない」ということになる。ただし留意しなければいけないのは、租税回避地が「マネーロンダリング」に使われているかもしれないという点である。マネーロンダリングとは、犯罪行為で得た「汚れた資金」を偽名義の銀行口座に隠し置いたり、何カ所かの違う口座に資金を移したりして、汚れた資金であることを分からなくする「資金洗浄」である。

 犯罪に関連した資金洗浄のためにタックスヘイブンが使われているのが問題なら、同様にビットコインなどの仮想通貨はどうなのであろうか。匿名性のあるビットコインも資金洗浄の用途として使われる可能性が高いが、「犯罪収益移転防止法」の制定により、マネーロンダリングには使いづらくなりつつある。

 この法律制定に則して、組織犯罪やテロの資金提供などに対するリスクを最大限縮小し、総合的な資金移動の監督を徹底することが約束されたわけである。霧がかかったような不透明な仕組みに、多少の明かりが灯ったと言えるであろう。

富裕層の間で認識が高まる「パーマネントトラベラー」という選択

 法人の租税回避に対して、焦点を個人に当ててみるとどうなのであろうか?

 個人でもタックスヘイブンを通して租税回避ができると錯覚している人が多いが、実際は租税回避地にある程度住んでいないと難しいというのが現実である。そこで個人単位で海外に「旅行者」として住み続ける「パーマネントトラベラー(パーペチュアル・トラベラー)」が注目されている。パーマネントもパーペチュアルも「永久の」「永遠の」といった意味である。

 パーマネントトラベラーは、外国に住む一部の富裕層の間では人生の選択技にもなっている新しいライフスタイルだ。さまざまな国で非居住者としての期間だけ滞在し、税金を最小限に抑えるという方法である。タックスヘイブンに住所を置き、別荘などを所有する人達もいる。

 この存在についても否定的、批判的な立場の人もいるが、こういう選択もできるということ、そして実際にそういう生き方をしている人たちがいることは知っておいて損はない。

福祉やサービスの原資 考えたい税金の本当の意味

 世界各国で波紋を呼んでいる租税回避問題。誰もが払いたくないと思う「税金」であるが、国の大切な原資であることは間違いない。納税者にとっては納得の行かぬ用途で使われてしまう場合もあるし、日本についていえば国債の返済分に回される割合が大きいのも現実である。

 しかし、日本では国の収入の半分以上が税金である。医療、福祉、介護といった社会保障関係費、特に人口減少が進んで弱体化している地方・地域の財政力を補うための地方交付税交付金、社会的インフラである道路や下水道の工事・修繕費、学校施設や教育費。どれをとっても、我々が普通の生活を送る為に必要なものばかりである。

 こう考えるとやはり「脱税」がいかに許されない行為かがわかる。賢く節税をしながらも、納めるべき税金は納めたうえで、国がそれを正しい使い方をしているかどうか、しっかりと監視する必要があるのだ。

パナマ文書で見えてきたものとは

 パナマ文書の事件を、単なる「不正が明らかになった暴露事件」として終わらせてはいけない。租税回避にからむマネーロンダリング対策や仮想通貨に関わる課題にも、焦点を当てる必要がある。また、節税対策ながらも「永遠の旅人」という生き方があることにも焦点があたっている。もしかしたら、これを前向きな選択として考える人もいるのではないだろうか。

 いずれにせよ、収入の多寡に関わらず税金に関係がない人はいない。日本では消費税率の増税がまた延期されることになったが、この機会に「節税」を含めて「税金」というものについて考えてみるのもよいかもしれない。

TOP