事業承継を目指すなら「社会の公器」たれ ~一般社団法人100年経営研究機構 代表理事  後藤俊夫氏の講演から読み取る100年企業の長寿の秘密~

(写真=PIXTA)

世界に類を見ない日本の企業持続力

おそらく多くの日本人は、“跡継ぎ”という言葉に違和感を感じることがないだろう。もしかしたらあなたもそうであったり、あるいはそうした友人知人がいたりするかもしれない。しかし、ひとたび海外へ目を向けると、我々のこうした概念は決してグローバルであるとは言えないようだ。

100年経営研究機構の代表理事である後藤俊夫氏は、1999年以来18年に渡り、世界に例を見ない日本の企業持続力について研究を重ねてきた。まさに、その道の第一人者である。この後藤氏の講演が、「THE EXPO 百年の計 in 名古屋」で実現した。

彼の研究によれば、100年・200年続く企業の数は世界的に見ても日本が群を抜いて多く、その秘密・秘訣を探ろうと、彼に世界各地から講演などの要望が寄せられているという。

松下幸之助の発想の原点

では、日本に長寿企業が多い理由は、いったいどこにあるのだろう。その問いを解くために後藤氏が着目したのが、“企業は社会の公器”という言葉である。

「この言葉を最初に言ったのは松下幸之助翁だと思われます。」

と後藤氏は言う。

松下幸之助は、父親がアメリカの相場に手を出し失敗したことで、少年期に人生の底を見た。尋常小学校を中退し、9歳で丁稚に出されている。そこからの人生逆転劇も経営者的視点から見れば非常に魅力的だが、この丁稚先で仲間からその天賦の商才をやっかまれたことが、“自分だけが良くても意味がない”という発想の原点になったという。

わかりやすく言い換えれば、これは“共存共栄”という言葉になる。なぜ商品が売れるのか。それは買う側に買うだけの理由と金銭的余裕があるからであって、売る側だけが栄えたのでは商売は成り立たない。この発想が根底にあったからこそ、彼と彼の組織は求められる商品を次々に生み出すことに成功したのだ。

何のために、会社はあるのか。

“経営者は、社会に役立つためにお金を預かっている”

——これが、松下幸之助の思想であり、ここにこそ企業が長く経営を続けるための秘訣があると後藤氏は語る。

今のように裕福ではない時代。国民一人ひとりが必死に日々を生きていた中で彼は、“自分の会社が勝つということは同業他社の経営を圧迫することであり、それが許されていいのだろうか”と悩んでいたという。これはもはや博愛と言ってもいい。今ではどんなに小さな会社であっても理念を掲げることは当たり前だが、これほどの崇高な想いをもって仕事にまい進する経営者は、果たしてどれだけ存在するだろうか。

また、彼は多くの著書を残したことでも知られているが、それらの著書は、会社が巨大化しすべての従業員に理念を理解させることが難しいと感じた彼が社員に向けたメッセージだったのではないかとも言われる。会社がどれだけ大きくなろうと変わらぬ理念を持ち、その伝道に力を注ぐことが、エンジニアから経営者となった彼にとって一番誇りを持てる仕事だったのかもしれない。

会社は何のためにあるのか。言うまでもなく、それは生きていくため。生きていくための原資を得るため。後藤氏も「私利私欲は決して悪いことではありません」と言い切る。しかし、それを社員やお客様、地域、社会に還元し、協調してゆくことで、いずれ会社は繁栄し、長寿が実現するのだとも言う。それを“公益性の昇華”と後藤氏は表現し、講演でその重要性を説いた。

震災時に見た“公益性の昇華”

東日本大震災のあと、後藤氏は東北の被災3県に足を運び、私情を捨てて会社や地域に寄り添う経営者に出会い、“社会の公器”であることが事業継続の最大の秘訣であるという想いを強くしたという。身内よりもまず社員の無事を確認する社長や、自社の商品を避難所に無償で配る経営者…。それを彼らは、心に一点の曇りもなく“恩返し”と捉え、行動していたという。

企業による支援活動が震災後の混乱時に多く見られたことは、報道などで知る人も少なくないだろう。また、そうした企業の行動や、被災地における日本人の統率・抑制の取れた行動に、海外から賞賛の声が集まったことも忘れられない。

つまり日本人には、還元・協調の心が、意識レベル以前にDNAとして備わっているのではないだろうか。そしてそれこそが、“社会の公器”という考えの源であり、日本が長寿企業大国である所以なのではないだろうか。

後藤氏が収集し統計立てたデータは膨大な量に上るようで、30分ほどの講演では到底語れるものではなく、この日も要所をかいつまみながらの講演となったが、それでも、日本の企業文化の証たるデータの数々はロマンを感じさせるし、長寿企業文化の魅力を伝えようと熱を帯びるその語り口には聞き手を引き付ける力があった。

長寿企業は世界に誇るべき日本の宝だと後藤氏は言う。一見、企業の繁栄と“公益性の昇華”は相反するもののように思えるかもしれないが、遠回りにも思える取り組みを積み重ねることによって、日本は長寿企業大国として独自の文化を創造し得たのだと、後藤氏の講演からは強く感じることができた。

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