聖徳太子の時代から1439年。世界最古の企業がいま取り組む経営の革新と伝統の継承

株式会社 金剛組
代表取締役社長
刀根健一

<聞き手>
百年の計実行委員会
実行副委員長
天崎 日出雄(株式会社ボルテックス)

世界に類を見ない長寿企業大国、日本。創業100年以上の企業の数はいまや3万3000を超えるが、その中に世界最古の企業が含まれていることは、日本の企業文化における大きな財産として世界に誇るべきものではないだろうか。

 その世界最古の企業の名は、株式会社金剛組。創業は西暦578年。聖徳太子の命で百済からやってきた3人の宮大工のうちの1人、金剛重光をルーツに、四天王寺及びその関連寺院の建立、改修、再建に代々従事してきた。明治以降はより幅広く社寺建築に携わり、2006年に髙松建設傘下に入り、新体制でその歴史を紡ぎ続けている。

 現在の社長、刀根健一氏は、新生金剛組における2代目のトップ。髙松建設やグループ会社である青木あすなろ建設で培った経験・ノウハウを取り入れながら、歴史に裏打ちされた技と文化を丁寧に継承している。その想いと取り組みに、百年の計実行委員会の天崎日出雄が迫った。

四天王寺の歴史と共に続1,400年の建築技術

天崎:
髙松建設さんのような建設会社と社寺建築の金剛組さん。同じ建物を建てる会社ではありますが、毛色はずいぶん違いますね。

刀根:
まったくと言っていいほど違いますね。普通「建てる」と言えば、ビルやマンションなら収益を考えますし、一戸建てなら個人所有になる。ところが社寺建築の場合、建築の原資は檀家さんや氏子さんからの寄附で成り立っています。ですから、共有となり寄附に対するリターン(収益)はありません。収益を目的としていませんから、急いで建てる必要もありません。5年10年計画で寄付を募って費用を貯めて、貯まったら「ほなぼちぼちやろか」という感じでスタートするんです。

天崎:
それだと、企業としては売上が読みにくいですね。

刀根:
そうなんです。売上として計上したのに「寄付が集まっていないのでまだ建てられない」ということも少なくありませんし、工期が延びてもあまり問題にはなりません。普通の建築会社で工期が延びる・遅れるということはペナルティーものですが、お寺は違う。「延びますねん」というと「いつも丁寧にやってくれてはるからやね」と返ってくる。逆に早く終わったほうが「手を抜いたんちゃうか」と思われる可能性があります(笑)。

天崎:
その中で1,400年も続けてこられたのはなぜなんでしょうか?

刀根:
まずは何より大きいのは四天王寺さんの存在でしょう。聖徳太子が百済から呼んだ3人の工匠の1人であった金剛重光が四天王寺のお抱え大工、正大工(しょうだいく)と言いますが、それを拝命したことがすべての始まりで、それから江戸の終わり頃までは、ほぼ四天王寺さんの仕事一本だったのではないかと思います。関連寺院だけでも相当な数があったそうですし、敷地も今の何倍もあったと言いますから、かなりの仕事量だったはずです。
四天王寺さんは、石山合戦や大坂冬の陣、第二次世界大戦の大阪大空襲など、記録に残っているだけで17回も罹災していますが、そのたびに同じ場所に復興し、その都度金剛組が再建の職を担ってきました。確かな力量、廉価な見積り、代替わりしても優れた建物を生み出すことができる徒弟制度があったからこそ、時代が変わっても仕事を頂けたのだろうと思います。

ビジネスの基本にもつながる金剛組「十六の教え」

天崎:
社訓や受け継がれている言葉はありますか?

刀根:
口伝で伝わっていたものを32代目が遺言として書き残したものがあります。

天崎:
32代目というと、今から何年ぐらい前になりますか?

刀根:
喜定(きじょう)さんという方で、これを書いたのが1802年。215年前ですね。実際にはそれ以前からあった教えだと思います。「読書、そろばんの稽古をせよ」「大酒をしないように」など、書いてあるのは当たり前のことばかりですが、文章・文字として残っているのはこれが唯一と言ってもいいぐらいで、あとはたいてい焼けてしまっているんです。

天崎:
職人に向けてというよりも人としての教えですね。言葉遣いや服装などについても書いてあって、ビジネスの基本にもつながるように思います。

刀根:
それはなぜかというと、僧侶は知識階級に属する方々であり、又「寺子屋」という言葉があるようにお寺は今の学校の役割を担っていました。さらに今の檀家制度は江戸時代に寺請制度として、お寺に役所の役割を担わせたのが始まりです。そういう人たちと仕事のお話をするにあたって必要であろうという心得や礼儀・作法、常識等をまとめたもの。それが、この十六の教えなのだと思います。

「金剛家には迷惑をかけられへん」会社が倒れかかっても職人は残った

天崎:
社長になられてからご苦労されたこと、取り組まれたことはどんなことでしょう。

刀根:
髙松建設としては2006年から金剛組の再建に関わりましたが、私が来たのは2011年。すでに会社の仕組みや体制はある程度整えられていましたが、やはり最初は大変だったようです。まず、発祥が大工の会社ですから徒弟の意識が強く、組織としての体制にあいまいな部分がありました。又、中間検査の仕組みが整っていないので、時々施工上の手直しが起こり、わりと経験頼みだったんです。そこで、髙松建設のきめ細かい検査システムを社寺建築に応用したり、ご提案開始から引き渡しまでのフローチャートを明文化しました。又標準ディテールを各担当者毎のバラつきを統一することにしました。
私は当初は専務として入社しましたが、時間があれば現場に行っていましたね。机上で報告を聞くのではなく、とにかく現場の人の話を聞いて、持って帰る。それを続けたことで、どこを改善しなければいけないか、髙松建設での経験から何が活かせるか、無駄な部分や重複している箇所など、いろいろなことがわかったんです。

天崎:
「感覚を標準化する」というのは、言葉以上に難しそうな作業ですね。

刀根:
経営においても同じことが言えます。以前は取締役会もなく、社員が何をしているのかを把握することさえできていなかったそうです。そこで、年度計画を立てて今年の目標を発表したり、その進捗状況を毎月確認したりすることで、経営面の組織化を図りました。

天崎:
職人さんは何人ぐらいいらっしゃるんですか?

刀根:
専属宮大工は現在約100名います。8人の棟梁のもと、大阪6つ、東京2つの「組」を組んで構成されています。「組」はそれぞれに会社組織になっているので、当社は彼らと直接契約を結んでいるわけではありません。それなのに、彼らは仕事がない時も「金剛家との絆があるから絶対よその仕事はせん」と言ってうちの仕事を待っているんです。会社が倒れかかった時も、宮大工はひとりもやめなかったといいます。「今まで金剛家に世話になってきたのにこんなことでやめられへん」「お寺さんや神社さんに迷惑かけられへん」という理由で、職人がバラバラになることがなかった。いくら髙松建設が支援すると言っても、人と技術がなければどうにもなりませんから、これは大きな財産だと思います。

天崎:
でも、金剛組さんほどの会社であれば仕事は継続的に入って来るでしょうから、仕事を待つまでもないのではないですか?

刀根:
いやいや、営業しないと無理ですよ(笑)。歴史があるせいで敷居も値段も高いイメージを持たれてますが、そこは普通の会社と一緒で、お困りごとを聞くところから入って、提案して、ご住職や檀家さん、宮司さんや氏子さんと一緒に作り込んでいく。やっぱりみなさん、新しい社殿、お堂は夢ですからね。200年や300年に一度のことですから。丁寧に意見を聞きながら進めています。

天崎:
営業が大事というのは意外ですね。しかも、他の不動産営業よりも信頼関係を作るのが難しそうにも感じます。

刀根:
普通のマンションでも提案から引き渡しまで2~3年かかることはよくあると思いますが、社寺の場合は、出会って提案して見積もって、概算でだいたいこれで良しとなれば、そこから総代に相談して、総代会を開いて、何年もかけて寄付集めて…。5年10年かかることも珍しくありません。

300年後にも「いい仕事」と言われるよう昔ながらを守っていきたい

天崎:
企業を変革する一方で、変わらずにあるものはどんなところですか?

刀根:
技術という意味で言えば、「昔のまま」をいかに継承するかですね。日進月歩で新しいことに取り組めなければ置いていかれる建築業界の中にあって、社寺は様式の変化が非常に少なく、昔ながらのことを守っていかなくてはいけない。それはそれで難しさもありますが、それこそが当社の守るべきものだと思います。
社寺を建てる際、上棟式の時に棟札というものを屋根裏に祀ります。そしてその棟札には工事の由緒や施工者、棟梁、大工の名前などが書いてある札です。建物が建ってしまえば誰かに見られるものではありませんが、何百年か後に改修することになれば、その時の大工が目にすることになります。つまり、時代を超えて人に見られる仕事なんです。だから、見えるところはもちろん、普段見えないところまで丁寧に作業する。300年後に「この大工さん、いい仕事をしたな」と思われるように、時代を超えて人に見られても恥ずかしくない仕事を残していきたいです。

天崎:
ミケランジェロも同じようなことを言ってますね。上のほうはどうせ見えないから手を抜いてもわからないのに、「神様が見ているから」と言って手を抜かなかったそうです。社寺建築も、もはや芸術の域ということですね。

刀根:
やはり我々は常に「神仏を安置する建物だから手を抜いちゃいかん」という想いは強く持っています。

天崎:
最後に、今後のビジョンについて教えてください。

刀根:
最近は少子高齢化に伴う檀家の減少や、墓じまい、樹木葬や散骨といった弔いのあり方の変化もあり、地方や過疎の地域には、修理したくても経済面で厳しい状況の社寺も少なくありません。一方、お寺さん神社さんは土地をお持ちですから、そうした資産をどう活かしていけるかを考えて頂く必要も感じています。その部分を、髙松建設グループのノウハウとシナジーでフォローし、土地を有効利用し、その収益を社殿・お堂の建替えや改修の建築資金に充当するような提案をしていく。そうした提案も、長く社寺建築に関わってきた会社としてやるべきことではないかと思っています。

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