東南アジアに「政治の季節」が到来

(写真=KYTan/Shutterstock.com)

少子高齢化で国内市場が縮小する中、成長著しい東南アジアに成長の機会を求める中小企業が増えている。若年人口が多く、市場としての魅力に富んだ東南アジア各国では、2018年以降多くの国が国政選挙を予定している。「政治の季節」が到来する東南アジアの様子を見て行こう。

92歳のベテラン首相が「民主化」主導:マレーシア

2018年5月9日、政治的・経済的に安定成長を続け、「東南アジアの優等生」と呼ばれてきたマレーシアに激震が走った。英国からの独立以降、国を率いてきた与党連合が総選挙で敗北し、初の政権交代が起きたのだ。

政権交代を率いたのは、日本ともつながりの強いマハティール・モハメド氏(92)。1980年代から22年にわたって首相の座についていたマハティール氏は、欧米の価値観よりも日本など東アジアの先進国から学ぼうという「ルックイースト政策」を打ち出したことで知られる人物だ。当時、マハティール氏のリーダーシップの下、マレーシアには多くの日本企業が進出した。

マハティール氏は近年、ナジブ前首相による公金横領疑惑への批判を強め、対立が激化。政権打倒を目指し、野党新党を立ち上げた。首相の汚職疑惑に加え、通貨安による生活コストの高騰、消費税導入による増税などから、野党支持者が拡大。対するナジブ政権側は、「反フェイクニュース法」の施行によるインターネットメディアやSNSでの批判封じ、ゲリマンダリング(特定の政党や候補者に有利なように選挙区割りを操作すること)、選挙日を平日に設定する――といった手段で抵抗したが、政権交代を望む人々の意思は固く、野党が地すべり的勝利を収めた。

水曜日の投票となったにも関わらず、当日は多くの人々が「マレーシアを救え」の掛け声の下、投票権がある地元に帰省した。帰省のためのバスや電車が予約できなかった人を自家用車に乗せて送っていく人や、懐事情の厳しい大学生の帰省代金のカンパなども広がった。海外在住者の中には、郵送での在外投票締め切りに間に合わず、マレーシアに向かう飛行機のパイロットが投票用紙を受け取り、投票所まで運ぶといった一幕もあったという。

92歳の元首相の再登板に世界がどよめいたが、マハティール氏は就任からわずか1カ月で、消費税の実質的廃止や、日本が参画を求めていた高速鉄道事業の中止など、重要政策を矢継ぎ早に繰り出している。一方、財政不安への危機感を募らせた国民や民間企業の間では、巨額の政府債務を減らすための募金(希望基金)がブームとなっている。

マレーシアの他、5月には東ティモールでも国民議会選挙が行われ、野党連合「前進への改革連盟」が過半数を獲得し、政権交代を果たした。

中国の存在感が拡大、野党不在のまま総選挙実施へ:カンボジア

7月末には、東南アジアの「フロンティア」として注目を浴びるカンボジアでも総選挙が行われる。5年前の総選挙で最大野党の座席数が急拡大したことに危機感を募らせたフン・セン首相は、言論統制や野党への弾圧を強めている。昨年の地方選で最大野党がさらに躍進したことから、野党党首を国家反逆の疑いで逮捕し、党そのものも解党させた。今回の総選挙は、最大野党なしに実施される見込みだ。欧米各国は、野党不在の今回の選挙には正当性がないとして支援を打ち切ったが、日本や中国は選挙を支援する姿勢を示している。特に近年、カンボジアではフン・セン首相の後ろ盾となっている中国の存在感が増しており、長年和平プロセスや経済支援を続けてきた日本の働きかけが求められている。

タイ、インドネシアの両国でも選挙、経済成長に不透明感も

自動車業界を中心に多くの日本企業が進出するタイでは、11月に総選挙が予定されている。国のシンボル的存在であったプミポン前国王亡き後の総選挙では、軍政の対応次第で再び政情不安が起こり、経済成長にも水を差す恐れが指摘されている。
一方、近年は製造拠点としてだけでなく市場としても投資が増えるインドネシアでも、2019年の大統領選挙を控えて、本格的な政治の季節が到来する。再選を目指すジョコ・ウィドド大統領も野党側も、政治活動を活発化させる見込みだ。ただ、同国では最近イスラム過激派によるテロが相次いでおり、政治的な安定が揺らげば社会不安を招く可能性も懸念される。


経済・社会的な結びつきが強まる東南アジアの政治に注目

東南アジアの新興国では、制度上は民主化されていたとしても、強権的な専制体制が残っている国もまだ多い。政権の行方次第では、日本が多額を投じている大型インフラ事業などの推進に影響が出たり、テロなどの社会不安を招いたりする可能性も高い。日本のビジネスマンは、経済・社会的な結びつきが強まる東南アジアの政治状況を注視する必要があるだろう。

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